
こんにちは,HACARUS 東京R&Dセンター所属のエッジ・エバンジェリスト 田胡治之です.この連載では,半導体業界で長年知識や情報を得てきた私,田胡がこれまでと異なるAI業界に飛び込み,そこから感じる業界のニュースやトピックを独自の視点で紹介したいと思います.今回は,エッジAIシステムでのデータ収集用途を念頭に置いたブルートゥース機能つきマイコン探しです.
ブルートゥース機能付きマイコン
ブルートゥース(Bluetooth)とは、「近距離でデジタル機器のデータ通信をやり取りする無線通信技術」です.一般消費者向け製品では,ブルートゥースマウス,ワイヤレスイヤフォーン.スマートウォッチ,スマートスピーカー,ヘルスケアデバイスなどが身近でしょう.産業用では,ビル管理,医療機器,工場設備管理などに広く使われています.離れた場所のセンサーデータ(例:ビル各所の気温湿度)を配線なしでコントローラーに集めたり制御する用途です.最近,ブルートゥース通信機能をマイコンに入れた製品があります.本稿では,それをブルートゥース・マイコン,または BT-MCU と呼びます.エッジAIシステムでのデータ収集用途を念頭に置いて,以下の条件を満たすブルートゥース・マイコン製品を調べました.
- 各国の電波法に適合していること.ブルートゥース機器は電波を出すため.電波暗室などではない通常の環境で実験を行うには各国の電波法に適合している必要があります.日本では技術基準適合証明(通称技適)[2],北米(FCC/ISED),欧州(CE)の電波法認証を取得済み製品.
- 電池寿命を予測する手段を持つこと.ブルートゥース・マイコンの多くは,電池(コイン電池等)で動くように設計されており,低消費電力で広い動作電圧範囲を持ちます.ブルートゥース・マイコンの電池寿命は,データ送受信量と動作頻度に大きく依存します.実動作条件での消費電力測定が,電池寿命予測に重要です.
- Bluetooth 5.0以上, Low energy 規格を満たす製品
- 入手性がよいこと.電子部品販売サイトなどで在庫があり一個から買えること.
SoC,モジュール,開発ボード
ブルートゥース・マイコン,モジュールと開発ボードのブロック図と製品例を Figure 1 に示します.中心となるブルートゥース・マイコンのチップを本稿ではSoC(System on Chip)と呼びます.SoCは,ブルートゥース無線回路(Bluetooth Radio),マイコンコア(MCU Core),プログラムメモリ(Flash ROM),データ用メモリ(RAM),周辺回路(Peripherals),等から構成されたワンチップ・マイコンです(Figure 1 左).次のレベルはモジュール(Module)で,小さなプリント基板上にSoCとアンテナが載っています.Figure 1 中央にアンテナ内蔵モジュールの例を示します.アンテナはプリント基板パターン(トレース)で作る場合と,誘電体アンテナチップを載せる場合があります.アンテナ外付けの場合は,コネクタまたはピンをモジュール上に設けます.開発ボード(Development board)は,前記モジュール,電源回路(Power circuit),デバッグ用回路(Emulator circuit),外部I/Oボード接続のための I/O コネクタ,ボード上のスイッチとLED, ホストPC接続用USBコネクタ,などから構成されます.

Figure 1 SoC, モジュール,開発ボードのブロック図と製品例 [3][4][7]
Silicon Labs のブルートゥース・マイコン
SoCの例として,Silicon Labs社BG220P のブロックダイアグラムを示します(Figure 2)[3].マイコンコア 76.8 MHz ARM Cortex®-M33 with DSP and FPU,プログラム格納用 512 kB flash memory,データ用 32 kB RAM,ブルートゥース無線回路(Radio Subsystem).各種周辺機能などから構成されます.

Figure 2 Silicon Labs, EFR32BG22 Wireless Gecko SoC Block diagram [3]

Figure 3 Silicon Labs BGM220P Wireless Gecko Module Starter Kit [7]に加筆

Figure 4 Silicon Labs Gecko module starter kit の消費電力測定回路 [7]

Figure 5 Silicon Labs Simplicity Studio の消費電力測定(AEM)画面 [8]
Renesas のブルートゥース・マイコン
Renesas社のブルートゥース・マイコンのひとつは,RX23W group です[9][10].アンテナ内蔵で電波法適合取得済みのモジュールとそうでないもの(SoCそのもの)の3種類あります(Figure 6)

Figure 6 Renesas RX23W group [9]

Figure 7 Renesas RX23W SoC Block diagram [9]

Figure 8 Renesas Target Board for RX23W module [11]

Figure 9 Renesas Target Board for RX23W module の電流測定用ヘッダ取付箇所とパターンカット箇所 [11]
まとめ
- エッジAIシステムでのデータ収集用途を念頭に置いて,電波法適合取得済みで入手性がよいブルートゥース・マイコン製品をざっと調べました.Silicon Labs社製モジュールと開発ボード, Renesas社製モジュールと開発ボードが見つかりました.
- Silicon Labs 社製開発ボードBGM220P Wireless Gecko Module Starter Kit が今回の目的にマッチすると考えます.
- Renesas 社製RX23W Group Target Board for RX23W module が今回の目的にマッチすると考えます.
参考文献
[1] IoT普及に拍車をかけるBluetoothのメッシュネットワーク対応、その仕組みとはhttps://japan.zdnet.com/article/35104637/
[2] 総務省電波利用ページ 基準認証制度
https://www.tele.soumu.go.jp/j/equ/index.htm
[3] Silicon Labs, EFR32BG22 Wireless Gecko SoC Family Data Sheet
https://www.mouser.jp/datasheet/2/368/efr32bg22_datasheet-1830163.pdf
[4] Silicon Labs, BGM220P Wireless Gecko Bluetooth Module Data Sheet
https://www.mouser.jp/pdfDocs/bgm220p-datasheet.pdf
[5] Silicon Labs UG465: BGM220 Explorer Kit User’s Guide
https://www.mouser.jp/datasheet/2/368/ug465_brd4314a-1919591.pdf
[6] UG415: Thunderboard™ EFR32BG22 User’s Guide
https://www.mouser.jp/datasheet/2/368/ug415_sltb010a_user_guide-1994286.pdf
[7] Silicon Labs,UG432: BGM220P Wireless Gecko Module Starter Kit User’s Guide
https://www.mouser.jp/datasheet/2/368/SiliconLaboratories_UserGuide432-BRD4311A_Radio_Bo-1888702.pdf
[8] Silicon Labs, AN0822: Simplicity Studio™ User’s Guide
https://www.silabs.com/documents/public/application-notes/AN0822-simplicity-studio-user-guide.pdf
[9] Renesas, Datasheet RX23W Group
https://www.mouser.jp/datasheet/2/698/r01ds0342ej0110_rx23w-2308099.pdf
[10] Renesas, RX23W 製品情報
[11] Renesas, RX23W Group Target Board for RX23W module ユーザーズマニュアル