
少量データで課題を解決する人工知能(AI)のソフトウエア開発会社「株式会社HACARUS(ハカルス)」(代表取締役CEO・藤原健真、京都市中京区)は、東京工業大学・物質理工学院(東京都目黒区)の中山亮特任助教、一杉太郎教授との共同研究の成果を用いて、「実験計画アルゴリズム(手順)」(下、イメージ図)を開発しました。
このアルゴリズムは、新規材料を発見するための実験回数を、条件によっては従来の半分以下に削減できます。AIが自ら重要なデータを抽出して学習と推論を行う「スパースモデリング」(※1)を活用したのが特長で、新材料開発に要する時間と費用の削減に貢献できます。「SDGs(持続可能な開発目標)」や「脱炭素社会(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)」(※2)の達成を目指す上で、マテリアル(材料)研究開発は未来社会の要となっています。今回開発した独自AIにより、工場や自動車の二酸化炭素排出削減に必要な材料から、電子機器に用いる希少金属代替材料まで、幅広い分野で新規材料をより効率的に探し、人だけでは成しえなかった材料の開発が期待できます。
※1)AIを支える手法は複数あり、このうち「ディープラーニング(深層学習)」は、AIが自ら結論を導き出すための「モデル(計算式)」を作り上げるまでに、大量のデータが必要です。その一方で、「スパースモデリング」は、データの中に潜む本質的な違いに注目して「モデル」を作り上げるため、少量データに対しても有効な手法として知られています。
※2)脱炭素社会の実現やSDGs(持続可能な開発目標)は世界共通の課題となっています。その対応例として、工場の二酸化炭素排出削減、電気自動車への転換、安全で強靭な「住み続けられるまちづくり」に必要な自動運転、「産業と技術革新の基盤」となる、第5世代移動通信システム(5G)による高速通信、ウェアラブルデバイス(身につけるデジタル端末)などがあり、これらに対して適用される材料は多様です。「電子材料」、「イオン伝導材料」、「磁性材料」、「触媒材料」、「構造材料」、「有機材料」、「誘電体材料」などがあり、例えば、電気自動車の例では、「全固体電池」の性能向上に向けて、イオン伝導材料の開発が不可欠です。しかし、その材料を探すのが難しく、AIの有効活用が必要となっています。
【背景】従来は、「合成パラメータ(実験条件)」の種類を絞り込まざるを得なかった
マテリアル分野における諸外国との競争激化を背景として、材料開発の効率化に向けて、AIの手法(機械学習など)を活用した合成条件最適化に近年注目が集まっています。
これまでの材料開発においては、AIを活用する場合においても、温度や圧力、原料の比率など多数の合成パラメータ(実験条件)の中から、材料を研究する科学者の知識や経験に基づいて、入力する合成パラメータを絞り込む必要がありました。これは金銭的・時間的コストを減らすため、現実的な実験回数で最適化を完了する必要があるためです。
今回、ハカルスのスパースモデリング技術を活用し、必要な実験回数を大幅に低減することに成功しました。
【利点のポイント】時間や費用削減、新発見に向けて
(1) 材料の開発時間や費用の削減につながります。
四つの合成パラメータを調整する実験をするとします。従来の手法では、この四つの合成パラメータをそれぞれ均等に扱って、探索を行っていました。新アルゴリズムでは、この四つのうち一つの合成パラメータについては材料特性の変化がほとんどない場合、その合成パラメータを探索の対象から自動的に取り除き、実験総数を従来の2分の1程度に削減します。さらに、二つの合成パラメータが特性に大きな影響を与えない場合は、実験総数を3分の1程度に削減できることを確認しました。
これは、不要な合成パラメータを事前に取り除いた場合と同等の実験回数に相当します。しかし、一般に不要かどうかは事前にわからないので、専門家の判断を基に使用する合成パラメータを決定しますが、本手法を使用することで合成パラメータの吟味がそもそも不要となり、実験回数の削減も期待できます。
(2) 探索空間の拡大から新発見の可能性が高まります。
これまでの材料開発では、材料科学者の知識や経験に基づき、事前に合成パラメータを絞り込む必要がありました。過去に、電気を通す「導電性プラスチック」や送電ケーブルやリニアモーターカーへの活用が期待される「超伝導体」の開発において、研究者の常識や先入観を覆す予想外の発見(セレンディピティ)がありました。そのため、専門家の勘や経験によって、合成パラメータを絞り込むのではなく、本手法を使用してなるべく多くの合成パラメータを検討することで、より広大な探索空間を扱うことができるため、新材料の発見が期待できます。
(3) 専門家の判断の質を高められます。
本手法に基づいて実験を繰り返すことで、合成パラメータの重要度を推定できます。この重要度と材料科学の専門家の判断との違いが明確になるため、差を埋めるための新しい理論の構築にも役立つとみられます。その差をなくしていければ、結果的に材料科学の専門家の判断の質向上につながります。
■HACARUS 代表取締役CEO 藤原健真のコメント
本研究で確立した手法を実際の材料探索で活用するとともに、一杉教授や中山特任助教が研究している自律型実験装置と組み合わせ、新規材料開発への貢献を目指します。
【株式会社HACARUSについて】
HACARUSは、スパースモデリング技術をAIに応用し、少ないデータで、本当に役立つデジタルソリューションの提供をいたします。7年以上に渡り数多くの企業の問題解決に貢献してきたHACARUSならではの経験と技術力で、人の知見を資産化し、オペレーションの効率化・省人化を成功させます。データの取得から既存システムとの連携までを一貫して支援し、人間とAIが共存する未来の実現に取り組んでまいります。本件に関するご質問は、pr@hacarus.com までお問い合わせください。